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陣内病院ブログ

透析室の熊本地震〜前震の巻〜

2016.06.13

今月6月1日から透析診療が再開しました。
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1ヶ月半ぶりの “いつもの” 透析風景でありますが、
ここにたどり着くまでの透析室、
困難とミラクルの連続でありました。

 


4月14日(木)21:26に前震が発生。
熊本市内の震度は6弱。

幸いなことに、夜間透析が入っていなかったため、
患者さんを危険にさらす事態は免れました。

地震発生1時間後の22:25に透析室主任の馬林が病院入り。

壁の一部が剥がれ、什器が倒れ、室内が散乱している状態でしたが、
セントラルやRO装置は正常稼動で待機状態に入っており液漏れもなし。
コンソールも、1台が壁に倒れかかり警報灯が傾いていたのみで液漏れなし。
透析室、機械室共に給・排水管の破損なし。

室内を確認し、倒れかかった機器や書架を大まかに元に戻した
たった20分の間にも、
震度3が2回、震度4が2回の余震がありましたが、
それ以上透析室内の被害が進む様子は見られず、
停電も発生しなかったため、その時点では、
「これだったら、朝から部屋を片付ければ透析はできるな」
と思ったそう。

その後、透析室から出て別フロアの状況を確認に行ったところで
同じく院内状況を確認中だった検査室主任 井島から
「外ですごい水の音が聞こえる。
 排水溝から溢れそうなくらい大量の水が流れてる。」
との話を聞きます。

ここで、受水槽と揚水管の接合部がずれ、
受水槽の水が大量に流出していることが発覚します。



透析治療は、
体のあちこちの細胞が働く際に発生した老廃物を回収することで
汚れてしまった全身の血液を
いわば『洗い流す』ことで血液をキレイにする治療であります。

『洗い流す』にあたっては「水」が必要不可欠。

透析治療1回で1人あたりおよそ120ℓの透析液が必要となります。
この透析液を作る以外にも、
透析前後の洗浄や消毒、透析液の濃度調整など、
透析治療にあたっては大量の水を使用するのです。

ちなみにこちらが当院の受水槽。

この受水槽があるため、万一、公共水道の断水があっても、
ここから一定期間は水の供給が可能ですし、
受水槽に給水車で給水救援を受けるオプションも取れるはずだったのですが、
配管に破損があれば、館内への給水ができません。

前震直後のこの時点で目視確認できたのは、揚水管の破損のみでしたが、
他にも、配管破損が館内のどこかで起こっている可能性もあります。

破損箇所を特定し、修理を完了するまでの作業は、
とても職員でできる仕事ではなく、
専門の業者に頼まなければなりません。

時間がかかります。

これにて馬林主任の最悪の想定であった
「透析できない」事態が現実のものとなります。

こうした大きな地震による広域被災の際、
水の供給元である公共水道は、
供給設備の被災状況のチェックのため一旦断水され、
再開したとしても、しばらくは試験通水としての減圧供給期間が続きます。

そこで配管破損などが発覚すれば
そのエリアで再び完全断水しての工事となりますので、
しばらくの間は安定的な供給が望めません。


過去の震災においても、
公共水道が、このような復旧経過をたどるため、
地震直後はしのげても、一定期間を経た時点から
透析不能に陥る施設がでてくる、という側面もありました。

こうした事態に陥った時、
透析施設同士での互助を可能とし、
行政支援を適確に被災施設につなぐシステムとして、
日本透析医会の透析災害ネットワークがあります。


当院でも、馬林主任が病院入りして30分後の22:55には、
日本透析医会の透析災害ネットワークに、
陣内病院が透析出来ないこと、
患者22名の受け入れ先を求むことを書き込み、
支援透析の情報更新を待ちました。

断水が発生したものの、
電気供給が絶たれることはなく、
館内のネット回線が活きていたこと、
さらには、透析の事務デスクが
こんな状況↓になっていたにもかかわらず、
PCに故障がなく動いた、というのが幸運でした。

その後、深夜0時になって
済生会熊本病院から30名受け入れ可能との情報がupされたのを確認し、
すぐに連絡。

その後、済生会熊本病院の副島一晃先生のご采配で、
0時40分には、その日透析予定の当院の患者さんの透析を、
その日の午後に済生会熊本病院で受け入れていただけることが決定。

最終的には、当院の透析患者22名全員の支援透析を受け入れていただくことで、
患者さんには、滞りなく透析治療を受けていただくことができたのでした。


というわけで、以降のお話は次回「本震の巻」に続く。